ソラミミ堂

淡海宇宙誌 XXXIII 愉快な「にゅーみん谷」

このエントリーをはてなブックマークに追加 2013年3月6日更新

イラスト 上田三佳

 美しい水の名の付く駅から川を遡るとその集落に至ります。
 かの有名な北欧の妖精の住む谷の名をもじり、村の誰かが冗談めかして言ったのが、言われてみれば確かにそんな雰囲気があるね、わかるねということで、だんだん本当らしくなってきた。
 そんな「にゅーみん谷」の人と場所とが大好きでもう何年も通っています。
 美しい川の両側に家が立ち並び、そのためここには入り口の「一号橋」から「二号」「三号」「四号」と数えて全部で十八本の橋があります。
 何よりいいなと思うのはそこに住む大人の多くが村への愛を自ら明かして憚るところがないことです。そして誰もが自ら村を楽しむ工夫を忘れない。
「にゅーみん谷」に関しては友人にこんな愉快な話があります。
 その友人は芸術家です。彼がある日この谷を歩いていた。この手の人種の多くがそうであるように、やや怪しげな風体で。
 歩いていると前から来た子に突然声をかけられた。友人に向かってその子はこう呼びかけた。
「おじさん、すごくいい景色が見えるとっておきの場所があるから連れて行ってあげよう」。
 友人思わず「はい」と答えてそのままついて行ってしまった。
「よく僕たちは子どもらに、道ばたで知らないおじさんに声をかけられても決してついて行ってはいけませんよ、と言い聞かせるが、「にゅーみん谷」では道ばたで、知らない子どもがあやしいおじさんに声をかけてきたよ」と笑って教えてくれました。
 あの谷らしい話だなあと時々思い出すのです。
 ひょっとして、友人が出会ったというその子はいたずら好きの「にゅーみん谷」の妖精だったのかもしれないな。だったらいいなと思っています。

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