ソラミミ堂

邂逅するソラミミ堂28 父の膝に座った

このエントリーをはてなブックマークに追加 2017年5月19日更新

イラスト 上田三佳

 東京へ出かける用事があって、ちょっと時間があるようなら、上野へ足を運びたい。というよりも、近江から来て上野の近くにいるならば、立ち寄らないでは済ませられない「家」がある。
 不忍池のほとりなるその「家」、「びわ湖長浜 KANNON-HOUSE(カンノンハウス)」は、上野駅にほど近いビルの一画にある。
 一年あまり前からこの場所へ、湖北各地の村里の観音さまたちが、およそ2か月毎にお一方ずつかわりばんこで「出張」しておられる。
 すぐそこの寛永寺は山号を「東叡山」と号し、不忍池を琵琶湖に見立て、池中の島を竹生島になぞらえて、弁天さまを迎えてお祀りしているように、そもそも上野のこの一帯は、近江を小さく模した場所である。
 近江の人に懐かしい、親しいこの場所で、都会の衆生済度(とついでに湖北・長浜のPR)のために、ひとりはるばる来ておられるとなれば、出張の合間、とんぼ返りでもご機嫌伺いに立ち寄らないではいられない。
 仏さまたちの東京出張と言えば、先だっては甲賀の古刹櫟野寺から、秘仏十一面観音さまを筆頭に二十もの仏さまが、やはり上野の博物館へ一座でお出かけになった。これがたいそう人気を呼んで来場者たちまち二十万人を超え、ご滞在が延長になったほどである。
 この会場にもご出張お見舞い(?)に伺ったが、なにしろたくさんの人出で驚いた。
 近江の村里で、静かに人々の祈りねがいに向き合っておられる仏さまたちも、ここでは前から横から後ろからライトを浴びて、少し面映ゆそうであった。
 そんな中にもご本尊十一面観音さまは、座高三メートルの圧巻の巨躯。室の真ん中に、さすが大仏の存在感でどっしりと座っておられる。周りにはわらわらと、見物客が群れている。
 それを見たとき「あ、あれはお父さんなのだ」と思った。そして不覚にも「ああ、あのおおきな膝に座りたい」と思ってしまった。思う前に、心はそこに座ってほかほかしていた。おさなごころになっていた。
 人が大仏をもとめるわけが分かった。大人だって、ときどきアマエタしたいのだ。

 

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