ソラミミ堂

邂逅するソラミミ堂1 金次郎の出征と帰還

このエントリーをはてなブックマークに追加 2014年9月1日更新

イラスト 上田三佳

 「まちかど遺産まいばら選考委員会」を名乗る一味に混じって、身近に隠れた町のたからもの、人の営みの記念碑の発掘・研究の片棒を担いでいます。
 自称「選考委員」はいい歳をした大人たち。皆相当の経歴の持ち主ですが、今後の「選考」に支障が出てはいけませんから皆の氏名は伏せておきます。
 好奇心と探究心、まちを愛する気持ちとそれから遊び心を失わず、そういういい大人に授与される素敵な「ルッチ大学士」の称号を持つ人たちだとだけ、ここでは明かしておきましょう。
 一日がかりの路上採集行に何度か出かけ、すでに百を超える「まちかど遺産」の候補がリストアップされています。今はとにかく気になるものを採集している段階なので、基準に照らして「遺産」に登録するかどうかはこれから吟味の上なのですが、既に暫定リスト上位にあるのが、例えば「学校美術(仮)」部門における「二宮金次郎群」です。
 既に市内に点在する学校で幾体もの像が確認されていますが、それぞれ顔立ちが違っているので「この金次郎さんが一番男前」とか「私はこっちの顔が好み」とか、「いっそ人気投票か」など、議論は白熱しています。背負っている薪あるいは柴の太さや本数を数え上げて「どの金次郎さんがより勤勉なのか」の検証も進んでいます。
 ある婦人の寄付により一度は建立されながら、先の大戦のさ中に武器として改鋳されて「出征」した金次郎さんもありました。台座だけ残っていた所へ、戦が果てて後、当初寄付した婦人の息子から改めて、親子二代の寄付で再建「帰還」したという、そういう秘史もあるのです。
 片や昨今「ながら読書」の姿がいわゆる「歩きスマホ」を連想させてよろしくないので撤去するとかしないとかいう噂も他所にはあるそうな。
 それはともかく、学校の統廃合に伴ってさすらいの憂き目にあった像もいて、今後いよいよまちに子供が減るならば、新たな受難は噂だけでは済まぬかも。
 双子や三つ子の金次郎さんが校門脇に並んで子らを迎えるような日が来ないとも限らない。

 

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