リアルに振り返ることができる時代

もったいない堂 傾奇小僧J

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2013年1月10日更新

西川章さん

 僕らの記憶にある古いものが雑然とディスプレーされている店に足を踏み入れたのは、彦根・豊郷・醒井でロケが行われた映画『家』(西村知美主演・秋原北胤監督・2013年春公開)で使う文机とスタンドを探していた時のことだ。「きっと、ありそうだ」と思った。西川章さんが2010年にオープンしたお店で『もったいない堂 傾奇小僧J』という。傾奇は「かぶき」と読む。「昭和レトロな企業物や家具、懐かしいおもちゃなど数多く取り寄せております。見ているだけでも懐かしいでしょう」という。
 西川さんは「うぶだしや」という仕事をしている。多分、骨董を扱う世界での専門用語だろうと思うのだが、「うぶ」とはまだ誰の目にも触れていないものをいう。だから「うぶだしや」は、骨董の業者相手に「うぶ」を出し商いをする人たちのことだ。「親方の元で『うぶだし』の修業をしている時は、昭和30年代のものは人気が無かったのですが、自分自身は面白いなぁと思っていました。それで、そういうお店をしたいと思い、始めました。今で言うところの昭和レトロですね」。

 映画『家』の時代設定は昭和30年代。実際に文机、電気スタンド、トランジスタラジオなどをお借りすることになった。
 店は3階だてのビルで階段にまで昭和レトロなもので溢れている。3階の一部が屋上になっていて、ここが西川さんの作業場である。訪れた日は椅子の修理をされていた。彦根城や佐和山が見え、瓦屋根が続く市内の風景があった……。「どんどんと古い家もものもなくなっていく時代です。もったいないなぁと思うのですよ。せっかく彦根にお店を持ったので、これから彦根に縁のあるものも集めていきたいと思っています」。
 味の素の缶、ビー玉、メンコ、アルマイトの弁当箱、そうかと思うとアンティークな鏡台、薬箪笥……。ビー玉は新品ではなく、遊びたくった傷が付いているところがいい。しかし、ディスプレーされている基準が判らなかった。

「自分が好きか嫌いかなんです。他の人には意味ないものもあるかもしれませんが、当時の人のデザインが好きなんですね。ライオン歯磨のライオンも面白いでしょ。ペンキの缶の絵もなんかこうキュンと来るんです」。西川さんは商いというより、本当に好きなものを集めて並べているという風である。店内を眺めていると欲しくなるものが多い。アンティークな小さなガラス瓶は魔力がある。古いカロム盤は絶対欲しい。絵の具のパレット、蓄音機。使いはしないが側に置いておきたい……。気を抜くと「これください」と言ってしまいそうである。ここにあるものが、リアルに体験した時代のもの、或いは祖父母の家にあったようなものだからだろう。どれひとつとっても、一晩語り明かすことができるくらいの記憶はある。
 あの時代が良かったと振り返っているのではない。あの時も今も僕は僕であることの証がここにあるように思うのだ。だからこそ懐かしい。だからこそ側に置いておきたいと思うのだろう。

もったいない堂 傾奇小僧J

滋賀県彦根市本町1丁目2-14 / Tel.090-4640-6000(西川)
ガラスの小瓶200円〜・味の素の缶(未使用缶500円〜・使用済み缶300円〜)・古時計5,000円〜

傾奇小僧Jでは、要らなくなった家具・家電製品・衣類・ギフト類・骨董などを買い取ったり、引き取ったりしてくれる。アンティークでなくてもガラクタでもご相談くださいとのこと。

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

小太郎

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