米の花のような……

辻川糀店

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 東近江市 2012年3月7日更新

辻川源一郎さん、加代さん夫妻

「昔はね、集落に1軒は麹をつくる家があったものです。家々で味噌を仕込むから麹が必要でした。だんだん味噌づくりする人が減っていって、自然に麹屋もなくなっていったんでしょう」。東近江市で「辻川糀店」を営む辻川源一郎さん(59)加代さん(59)夫妻が教えてくださった。辻川糀店は、辻川さんの曾祖父の代から100年以上麹製造を続けており、その麹で仕込んだ味噌などの販売もしている。
 私は最近ブームになっている塩麹をつくるための麹を求めて、辻川糀店にたどりついたのだ。そもそも麹は味噌はもちろん、味醂、酢、醤油、漬物、日本酒をつくるのに不可欠、日本人の食生活に重要な役割を果たしてきた。その麹に塩と水を混ぜてつくる塩麹は、魚や肉に漬けて焼いて良し、炒め物の味付けに良し、スープのダシに活用して良しと、今注目を浴びている。

辻川さんの背後が室

 お店はいたって普通の一軒家で、看板もない。母屋の隣の建物が作業場だ。看板を掲げていない理由を「昔からなかったからねえ」とご夫妻は笑っている。 辻川さんのお宅では稲作もしていて、麹づくりはいわば農閑期の仕事にあたる。ごく当たり前に昔ながらの暮らしがあるだけなのだ。
 麹のつくり方を簡単に説明しておく。
 洗って水に漬けておいた米を蒸し、いったん冷ましたのちに、京都から仕入れている麹菌を振りかけ、菌が米全体にいきわたるようかきまぜる。それらを室(むろ)と呼ぶ作業場の中の小部屋に入れ、発酵させる。室の四方の壁に稲藁をしきつめ、中央に炭で藁をいぶした藁灰(わらばい)を置き、温度調整しながら室を30~33度に保つ。室のなかで場所を代えたり、お湯を打ったりしながら2日がかりで発酵を進ませ、麹の完成となる。
 辻川さんは、一冬でおよそ4500㎏の麹を仕込む。1度にたくさんはつくれないから、冬の間50回くらい同じ作業を繰り返し、合間に味噌を仕込む。私がお邪魔したときは、麹が完成し、「重(じゅう)」と呼ばれる木の入れ物に並んでいた。「菌の胞子が今にも飛び立ちそうな、菌が生きているという力強さを感じるでしょう」。麹という漢字は中国から伝わったものだが、日本では「糀」の国字がつくられた。その文字の通り、米にふわふわの花が咲いたようである。この生き生きした麹を使ってご夫妻は味噌を仕込む。

米の花のような……

 源一郎さんは、勤めを引退し、5年前から麹製造に専念するようになった。「百姓が嫌で両親が麹づくりをしているのにも興味がなかったのに、自分 で一からやってみるとおもしろい。すべて自分が手がけたものがお客さんに渡っていく魅力にとりつかれていますね」。一方で加代さんは主婦業の傍ら先代を手伝ってきた。近くで見ると加代さんのお肌はしっとりすべすべである。「田んぼもあるから夏はしみがいっぱいできるのにいつの間にか消えてます。麹のおかげでしょうね」。
 辻川糀店では、塩麹の販売はしていないが、自宅用として辻川さんもつくっているとのことで、ご好意でいただいた。「麹でどぶろくもつくれますよ」と、レシピの記された紙もいただいた。となれば、我が家で辻川さんの麹はお酒へと変わることになりそうだ。

蒸した大豆と麹

昨シーズン仕込んだ味噌

室から出された麹

辻川糀店

滋賀県東近江市外町30 / TEL: 0748-22-3473

製造販売期間 12月~3月にかけて。期間中はほぼ無休。今年は3月半ばまで。営業時間は特に定めていない。品切れや製造中のことがあるので、事前に問い合わせた方が良い。
麹一升600円、米の持ち込みもでき、その場合加工賃350円。味噌500円~(大豆持込で加工賃のみなどもできる)甘酒300円。

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

いと

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