初恋レコード
2010年7月、商店街の一画に、川森優さん(28歳)が経営する「初恋レコード」がオープンした。中古レコード店である。川森さんは彦根の出身で、子どもの頃、商店街がシャッター通りになっていくのが淋しかったので、何かできることがあればいいなぁと、思っていたという。
「音楽が好きで、先輩や友人に教えられながらレコードでいろんな音楽を掘っていたんです。レコードも扱うリサイクルショップで仕事をしていたこともあって中古レコード店を始めました」。
「掘る」というのは、新しい音楽を探し聴く、発掘するというニュアンスだろう。
「初恋レコード」は、看板、ポップ、レコードラックなど全て手作りで、訪れた時も川森さんは招き猫を制作中だった。
彼女という言い方が適切かどうかはわからないが、彼女の中村江美さん(24歳)が店を手伝っている。フォトグラファーで、「初恋レコード」の店内を利用して小さな写真展を開催したりしている。中村さんのセンスも随分と反映されているのだろう。
「店名は、少しテレるようなインパクトのあるものにしたかったんです。懐かしいと言ってもらったり、レコードひとつから、いろいろな思い出をここで聞かせてもらえたりするのが嬉しいです」。
誰もが経験する初恋と、記憶に結びつくレコード。マニアでなくても、気になる店であることは確かだ。
「聴かなくなったレコードを買い取らせていただいて、販売させていただくことができればいいなぁと思っています」。
夕方、下校時に店内をのぞき合図を送る小学生がいる……。いつものことだという。ついつい、こっちも笑顔で手を振って応えたが、彼ら、彼女らは、レコードが何であるかも知らない。
映画に出てくるような光景も、「初恋レコード」という名前もそうだが、僕にとっての違和感は、昭和という懐かしまれる時代ではなく、昭和に似た全く新しい空気なのだという気がした。
1897年の初恋。 まだあげ初めし前髪の 林檎のもとに見えしとき 前にさしたる花櫛の 花ある君と思ひけり やさしく白き手をのべて 林檎をわれにあたえしは 薄紅の秋の実に 人こひ初めしはじめなり
『若菜集』、島崎藤村だ。 初恋は……、痛い。 「初恋レコード」は、やわらかい。
初恋レコード
滋賀県彦根市京町2-3-1
TEL & FAX: 0749-24-3255
営業12:00〜20:00 / 定休日 水曜日
店内には、LP・シングルレコードなど、約1,000枚。フォーク、ロックを中心に集められている。1枚300円〜150,000円まで。レコードの買い取り可能。オーディオ機器の相談にも対応可。
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
【小太郎】