音が生まれる蔵「おとくら」

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2010年3月19日更新

高宮の中山道沿いにある「座・楽庵」

 中山道・高宮宿。多賀大社の門前町として栄え、天保年間には中山道六十九次のなかでも2番目の大きさを誇ったという。今もこの界隈は、かつての宿場町の風情が残っている。
 この街道沿いに「座・楽庵」はある。築200年を越える商家を改装し、昨年夏誕生したコミュニティースペースだ。ギャラリーと、「おとくら」と名づけられた喫茶と蔵がある。蔵にはピアノ、ギター、エレクトーンが置いてあって、誰でも無料で自由に使うことができるようになっている。
 歴史ある建物を地域のために役立てたいと考えた家主の方が、滋賀県立大学の先生に相談を持ちかけたことが発端だった。学内で建物活用のコンペが開催され、4回生の三橋恵さんのアイデアが採用された。

ほの暗い蔵から響いてくるドビュッシーの調べ

「私自身が音楽好きなこともあり、音楽と人とのつながりをコンセプトにしたかったんです。住宅事情の関係などで自由に楽器を弾けないという方はもちろん、初心者の方でも楽器に触ってもらうことで音楽のおもしろさを発見していただきたいと期待しています」とおとくらへの思いを話してくださった。

 座・楽庵を訪れた時、ちょうどピアノを弾きに来た女性がいた。楽譜を開き、演奏が始まる……。漆喰と土壁のせいだろうか、その音はとても柔らかい。ほの暗い蔵からドビュッシーが響いてくる。幻想的な雰囲気だ。
 蔵と喫茶はつながっているので、思いがけない生演奏を、コーヒーを飲みながら楽しむことができてすごく得した気持ちになる。
「ピアノやギターだけでなくこれから楽器をもっと増やしたいですね」と三橋さんは話していた。

喫茶スペース「おとくら喫茶」

 さまざまな楽器を演奏しに来る人がつながっていけば、おとくら発のバンドが誕生することだってあるかもしれない。上級者が初心者の人にアドバイスするような「おとくら音楽教室」が始まるかもしれない。誰でも自由に…のおとくらだからこその、新しい風景が広がっていく。
 座・楽庵を後にして街道に出た。ドビュッシーが風に乗って聴こえてくる。目の前の高宮神社の参道は桜並木だ。花の頃……運が良ければ、桜を愛でながら風が運ぶ演奏を聴くことができるかもしれない。ドビュッシーを奏でる彼女の後ろ姿はとても素敵だったから……。

宿駅 座・楽庵

滋賀県彦根市高宮町1121
毎土日10:00〜17:00

喫茶メニューは、コーヒー、紅茶、マンゴージュースなど

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

編集部

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