顔のみえる発酵でつなぐ

ハッピー太郎醸造所

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2017年12月13日更新

 甘酒、鮒ずし、漬物、味噌…「ハッピー太郎」こと池島幸太郎さんのつくる発酵食品は、とてもうまい。味がしっかりしていつも軽やかで、素材に対して控えめなバランスが、どこか上品な感じがしている。
 どんなふうにつくられるのだろう…10月1日に発酵食品の工房とお店「ハッピー太郎醸造所」がオープンしたとき、さっそく伺った。
 築約100年の古民家を改築したという醸造所の前まで来ると、なんともいえないよい匂いが、店先まで漂っていた。工房のなかは、天井が高く、壁は全面に杉板がはられ、凛とした清潔感はどこか酒蔵のよう。てきぱきと立ち働く池島さんの傍らで、セイロが湯気をあげている。米が蒸しあがっていく香りが、こじんまりとした工房を満たす。季節ごとの発酵食品を仕込む池島さんだが、メインとして据えているのは糀。この日も、池島さんは糀を仕込んでいたのだ。
 「『ぬけがけ』という、主に大吟醸の米を蒸すときに使われる方法で蒸しています。蒸気がぬけてきたところに少しずつ米をかけるという工程を繰り返すので、手間はかかりますがふっくらした仕上がりになります。お米ひと粒ひと粒を大切にしたいのでこの方法をとっています。」
 そう話す池島さんは、3つの酒蔵で、あわせて12年の蔵人経験を積んでいる。酒蔵に入る前は、有機農業の先駆的存在である島根県弥栄町の農業法人で、5年間、米づくりなどの生産にたずさわった。さらに大阪では酒屋として販売の経験も積んだ池島さんは、米を生産し、加工し、販売し、味わうという過程が、それぞれ断絶してつながっていないと感じたという。「それぞれの過程がつながることの豊かさを広めていけたら」と、「顔の見える発酵食品でつながりを取り戻そう」をコンセプトに、独立を決めたのだそうだ。
 糀の原料となる米は、東近江で農薬・化学肥料を一切つかわない自然農法を実践する「池内農園」さんをはじめ、顔の見える付き合いができ、池島さんが信頼する近隣農家さんの米。「発酵するということは、米が分解されていって、どんな水と土を食べてきたか、その米が辿ってきた道がわかるということ。だから生産履歴のわかる米であることが大切」と池島さんは話す。特に池内農園さんの玄米は、「えぐみのない透明感のある味で、初めて食べたときすごいインスピレーションを感じた。つくり手として謙虚にさせてくれる大切なお米」という、池島さんが惚れこむお米。池内農園さんの玄米で、鮒ずしや甘酒、もちろん糀もつくっている。
 製造、販売、そしてもうひとつ、発酵食品のつくり方をワークショップで手ほどきすることも、池島さんは大切にしている。「味噌もふなずしも、家でつくり方を習うものだったけれど、一度はみんなやめてしまった。ふたたびつくって次の世代につなげられる手伝いができたら」
 蒸しあがったお米を取り出し、糀をつくる過程を見せてもらった。米を丁寧にほぐしながら、池島さんは「糀の顔を見ながらね」と言った。目に見えない菌と日々付き合う池島さんには、そんな顔も見えているんだな、と思った。

ハッピー太郎醸造所

滋賀県彦根市大薮町1624
営業時間 13:00〜17:00 / 土日祝定休(臨時休業あり)
Tel. 080-5236-2593

彦根の米を使った「糀」100g 162円、池内農園の米を使った「特・糀」100g 216円、甘酒の素「COME PRIMA」648円など

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

はま

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