風が緑になるとき

奥山の癒し処 風緑

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 多賀町 2016年6月27日更新

 河内の風穴を目指し、緑に染まる谷沿いの道を車で走る。細く窓を開けると、川の音と山の空気が入り、心地よい。一本道をのぼっていくとやがて河内の風穴の駐車場に到着するが、実はわたしの目当ては河内の風穴ではなく、入り口の橋のたもとにある、「奥山の癒し処 風緑」。今年3月末にオープンした、かき氷と多賀そばのお店だ。
 店の中へ入ると、谷に向かって開かれた窓に映える緑の色に目を奪われた。店主の藤本君子さんは「ここから見える四季の風景が一番のごちそうですよ。台風の後は水底の石が洗われて真っ白になって、水はエメラルドグリーンに澄んで、本当にきれい。靄が出た日も、雪の日も…その日ごとにきれいな風景が見られます」と話してくれた。

 ご主人の実家があるこの場所に小さな休憩所をつくり、藤本さんがかき氷屋を始めたのは15年ほど前。夏を中心に訪れる観光客、そして地元の人が寄る場所になればと続けてきたそうだ。「河内の風穴にはたくさんの人が来ますが、多賀町に3つある谷のうち、この谷だけが特に過疎が進んできています。地元のものを使って、地元と一緒に、ここを盛り上げていければ」と起業を決意した藤本さん。店のメニューのほとんどは地元産の素材で、手作りにこだわっている。
 そしてなにより、「そばも、かき氷も、コーヒーも、おいしいのは水のおかげ」と藤本さんは言う。なんと風緑の水は、河内の湧き水を上水で引いているのだそうだ。河内の人々がずっと飲んできた山の水だ。
 その水のおいしさが一番味わえるのは、やはりかき氷。2日間、じっくり時間をかけて大きな氷を自家製氷し、それを切り出してつくっているというかき氷の氷は、ふわふわと柔らかく口の中で溶ける。季節ごとにメニューが変わるミツも手作りで、多賀人参、ゆず、抹茶など、地元の素材からつくられている。澄んだ水の味が、手作りのやさしい甘さとともに味わえる。まさにここでしか味わえない贅沢なかき氷なのだ。

 そばは、毎朝藤本さんが手打ちしたものがいただける。多賀で生産されながら、地元では食べられる店が少ない多賀そばは、香りが高く、つるりとのどごしがよいのが特徴だ。
 そして藤本さんの言葉のとおり、窓から見える谷の風景が一番のごちそうで、食事をもっと特別なものにしてくれる。窓を開けると、山の濃密な風が力強く吹いた。「いい風が吹くでしょう。緑が深い時期は、風が緑になるような瞬間があるんですよ。それを感じに、みなさんに来てほしいですね」
 風が緑になる…いったいどんな風だろう。風を確かめに、また訪れようとおもう。

奥山の癒し処 風緑

滋賀県犬上郡多賀町河内610
TEL: 090-8932-1390
営業時間 平日11:00〜15:00 / 土日祝日・7/21〜8/31 10:00〜16:00
定休日 火・水曜日(祝日は営業、7/21〜8/31は無休)

定休日も団体予約可能、要相談

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

はま

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