よろずをひとつに

よろず淡日

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2015年12月18日更新

 彦根市日夏町の巡礼街道沿いにたたずむよろず屋「淡日」。ガラスのはまった木戸をカラカラ、と開けると、裸電球が灯る店内で、古い時計がコチコチと時を刻んでいる。土壁、土間、使い込まれた木箱や棚に商品が並ぶ。時が止まったような空間にしばしぼんやり…でも、「淡日」は今年の夏に開店したばかりの店だ。店主夫妻の疋田実さんと美智代さんが、昨年からこつこつと片付けや改修をし、この8月、ようやくオープンに至ったそうだ。
 もともとここは、大正時代に実さんの曽お祖父さんが開き、お祖父さんが引き継いだよろず屋だった。実さん自身は大阪育ちだが、子どもの頃から、長い休みのたびにこのよろず屋のある祖父母の家で過ごしたという。家の桶風呂や、野良仕事の合間や電話をかけに人々が集まる店の様子など、ここでの体験は、実さんのなかに強い印象を残した。
 やがて実さんは、福祉の勉強をしながらも心惹かれてやまなかった美術を志したり、家具をつくる仕事に就きつつ現代美術や古道具の世界を楽しむなど、ご本人いわく「右へ左へ行きながら」50歳を迎えていた。いつかはものづくりをしながら田舎暮らしをしたいと場所を探したこともあったが、「いまひとつ必然性がなくて」実現に至らなかった。

 一方よろず屋は、実さんのお祖父さんも亡くなり、閉店。年に1、2回、墓参りに帰り、家が徐々に朽ちていくのを見ながら、実さんは、「ここがええな」と思うようになったという。先祖の家でもあり、自らの感性が育てられた原点であるこの場所で、自分がこれまで右へ左へしながら見てきたもの、いいと思ったものを集めて、よろず屋をふたたび始めようと思うと、自然と必然性が生まれてきた。
 店に並べられた品物をよく見ると、昔懐かしの駄菓子、古道具、滋賀県内でつくられているお茶や食べ物、滋賀の作業所で作られた品物、コクヨのびわこ文具、缶詰やインスタント食品など、今も昔も出自も用途も入りみだれた様々なものがあり、まさに「よろず屋」。「これは?」と思うものでも、なぜこの店に置いてあるのか、ひとつひとつに理由がある。そんないわれを実さんや美智代さんに尋ねていると、時を忘れてしまいそうだった。
 「現代美術も古道具も、おかしもまんが雑誌も、一緒にあってもばらばらじゃない、 よろずがひとつ  だと思うんですよ。そういうことを、丁寧に粘り強く、伝えていきたい」と話す実さんと美智代さんには、地元に根付いた店でありたいという思いが強くある。店の壁に子ども達の落書き板をつくったり、地元のひとの意見を聞きながら商品を取り寄せたりもしている。

 淡日の母屋の屋根の上には、まだ新しい櫓が建っている。大工さんにつくってもらったという。「屋根の上に登ると、集落のなかからは見えない荒神山や、巡礼街道の道筋や、小さいけれどお城も見えるんですよ。そうすると、この集落の水の流れ、道の流れ、歴史の流れ、そういうものが感じられる。最初、地元のひとには『変なことしてる』って思われたみたいですけど、理由を話したらわかってもらえたので、そんなふうに、自分たちのやっていることを地道に伝えていきたいですね」。
 日夏の集落、荒神山、遠くの彦根城…今までばらばらに見ていたものがぐるりと一望できる風景は、知っているようで知らない風景だった。実さんが何度か口にした「よろずひとつに循環させてひとつにしていく」という言葉、そのままのようだと思った。

よろず淡日

滋賀県彦根市日夏町1979 / TEL: 0749-49-3890
定休日 火〜木曜日(祝日は営業)
営業時間 11:00〜18:00

「日夏のひとの本棚そして大切なもの展」を2015年1月8日(金)〜25日(月)開催。日夏のひと20名ほどが、自分の中の「この1冊」やものを紹介。古本なども販売。

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

はま

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