たこ焼き道

多幸屋

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2015年8月17日更新

 「たこ焼きが好きなんだね」と言われてようやく気がついた。よくたこ焼きを食べている。店ごとに食べ比べることはあまりしない。「うまい」と思った店に通い続ける。そういうタイプの「好き」なのである。そんな私が近ごろ通っているのは、「多幸屋」というたこ焼き屋だ。
 多幸屋は昨年秋、彦根市京町の交差点に、たこ焼き職人歴14年の西村繁宏さんが開店した。声が大きくてよく喋る、陽気な店主だ。
 看板には「たこ焼き屋」ではなく「蛸料理専門店」とあり、外壁にユニオンジャックが掲げられ、なんだか目を引く店だ。店内は古いコカ・コーラのポスターなどが飾られ、レトロな雰囲気。メニューには、たこ焼きはもちろん、たこカレー、たこ焼きグラタン、月替りの限定たこ焼きといったオリジナルメニューが並ぶ。「たこ焼き屋」ではなく「蛸料理専門店」という看板に納得した。ユニオンジャックやレトロな小物も西村さんの趣味で、聞けば古物商の資格も持っており、店の2階でレトログッズの販売もしているそうだ。 

 たこ焼きといえばソースにマヨネーズ、青のりにかつお節などのトッピングが定番だが、私はいつも「素焼き」を注文する。「素焼き」は、文字通りそのままの、トッピングのないたこ焼き。多幸屋のイチオシメニューだ。「たこ焼き自体がうまくないと出せない」という、西村さんのたこ焼きへの自信が表れた一品なのである。出汁がしっかりきいたとろとろの生地、やわらかくうまみのある蛸の味。アレンジメニューももちろん美味しい。けれどこれだけで十分だ…という至福は素焼きならではなのだ。この「素焼き」のルーツは、西村さんが9年間修業した大阪のたこ焼き屋「会津屋」にある。創始者が1933年にたこ焼きを開発したとされる、大阪でも指折りの老舗だ。たこ焼きというものは当初、何もかけずに食べるものだったらしく、まさに「元祖たこ焼き」の流れを汲むものだ。
 西村さんの夢は「自分史を出すことと詩の個展をすること」という。

 西村さんは短い詩や言葉を書いている。大阪時代、路上で始めたのをきっかけに、現在も店で販売を続けている。今まで書きためてきた言葉を展示したいという。当時は路上でのライブなどが盛んな頃。通りすがりの人たちとの忘れられない交流もあった。そうしたことや、会津屋のたこ焼きのうまさに衝撃を受けて押しかけるように入社したこと、目をかけてくれた当時の社長との思い出、独立後の事業のこと、結婚を機に地元に戻ってきてからのこと…たこ焼きを焼きながら経験してきたことをまとめたいという。

 最初は「自伝だなんておおげさな」と思わないでもなかったが、聞くほど波乱万丈な人生なのだ。いつか西村さんの自伝「たこ焼き道」が出るのを楽しみにしつつ、今日も私はたこ焼きを頬ばる。

多幸屋(たこや)

滋賀県彦根市京町2丁目3-1
TEL: 0749-24-3321

たこ焼き(3個180円〜)、たこカレー(280円〜)、たこ焼きグラタン(480円)、たこ焼きパーティー材料セット(3〜4人前1,000円)、たこ1尾(800〜1,200円)、1代目スペシャル焼き(各種トッピングを組み合わせた12個セット880円)
京町交差点北、「くもん」横に駐車場あり

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

はま

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