普段着の甲冑を作る

現代の甲冑師 一助朋月さん

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2012年9月17日更新

一助朋月さん

 甲冑を所有する歴史愛好家が増えている。甲冑を着用して参加する歴史系のイベントが増えており、自慢のマイ甲冑でイベントからイベントへと渡り歩く者もいるほどだ。彼らがどうやって甲冑を手に入れるかというと、自分で作るか、購入するかになる。手作り甲冑教室も人気で、自作派もかなりの数がいる。しかし難易度が高く、製作日数がかかるのが問題だ。一方、購入すればわずらわしさからは逃れられるが、価格や素材、デザインなど、ままならない点も多い。理想の甲冑を手に入れるのは意外と難しい。
 好みのデザインの甲冑を、比較的手軽で安価に作ることができる。おまけに着て映え、軽くて動きやすい。そんな甲冑愛好家の夢を叶えるのが、甲冑作家・一助朋月さんだ。
 一助朋月さんの作る甲冑は樹脂でできているのが特徴。金属製よりも軽く、紙製よりも丈夫な樹脂は、「着る甲冑」であるからこその選択だ。イベントで甲冑を着用する場合の問題点、たとえば「汗や雨で劣化する」「重くて思うように動けない」「衝撃を受けると壊れる」などを、軽くて丈夫な樹脂が解決してくれるという。素材は現代風でも、製作行程や工法は伝統的であるため、金属製甲冑と並べても違和感はない。それでいて強度や動きやすさなど、樹脂製のメリットは享受できる。本物の甲冑はフルセットで約20キログラム、レプリカの金属製甲冑でおよそ10キログラムだが、樹脂製甲冑は2キログラム程度とはるかに軽い。女性や高齢の愛好家も自由なアクションができる。

革のように見える樹脂は、「練革」という甲冑に用いる素材と似ている。伝統的な工法でひとつひとつ丁寧に作り上げる。風格のある仕上がりは、金属製の甲冑と並べても遜色ない。

 一助さんが甲冑を作り始めたのは10年程前。「手作り甲冑教室」への参加をきっかけに甲冑製作に目覚め、「もっと作りたい」と思うようになったという。子どもの頃から手先が器用で、学生時代は芝居に打ち込み、衣装や小道具製作にも慣れていた一助さん。教えてもらった知識を生かしつつ、独自の甲冑作りに挑戦。自作の甲冑を着てイベントに参加するようになった。当時の甲冑は紙製だったため、一度着ると壊れてしまう。工夫しながら製作を繰り返すなかで、素材を紙から樹脂に移行。現在の甲冑に近いものへと到達したのだ。しかしあくまでも甲冑は“自分のため”であり、販売することは想定外だったという。
 5年ほど前、奥様が「甲冑を売ってみたら」と提案。近い人たちに話してみたところ、「欲しい」「待ってました」の声が相次いだという。「オーダーを頼みたいという声も多く、その声に応えているうちに、甲冑製作が本業になっていました」と一助さん。その後も一助さんの樹脂甲冑は口コミで広がり、シーズンによっては“数ヶ月待ち”も珍しくない、人気の甲冑師になっていった。
 「うちの甲冑は着て楽しむ“普段着の甲冑”です。気兼ねなく持ち運んで、身に着けて楽しく遊んでいただきたいです」と一助さん。甲冑を着て楽しむ人がもっと増えること、仲間やライバルと切磋琢磨してより素晴らしい甲冑を作り上げることが、一助朋月さんの願いだ。

時代物工房 一助朋月

滋賀県長浜市元浜町19-2
TEL: 0749-50-4063
http://itisuke-ko-bo.net/

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

みなみ

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