人生を赤裸々に描く
松本慶子さん
「これまでの人生で着込んできたものを一枚ずつ脱ぎ捨てるみたいに赤裸々に描いたら、恥ずかしいけれどホッとしたの。」そう松本慶子さんは笑顔で話された。絵を描き始めてちょうど10年。85歳になる今年、初めての個展を開く。
北海道生まれの長浜育ち。農業のことなど何も知らないまま農家に嫁いだ。慣れないことばかりの辛い日々を支えてくれたのは、いいご主人と趣味の俳句だった。今のように好きなことを自由に楽しむことが出来なかった時代、ポケットにメモ帳を忍ばせ農作業の合間に俳句を詠んだ。
一度はまると、とことんのめり込むタイプである。お茶や手織りも良い仲間と一緒に今も続けていることが慶子さんの生きがいになっている。
75歳のとき、誘われて通い始めたのが絵画教室だった。絵を描くなんてと思ったが、やってみると手織に通じる色を表現する楽しさがあった。次第にきれいに描くだけでは物足りず、気持ちの中にあるものを描く抽象画に取り組むようになった。
抽象画を描くときにはテーマをまず考えるのが慶子さんのやり方である。けれども自分のすべてをさらけ出そうとキャンバスに向かって描いているうちに、自分でもなんでだろうと思うくらい違ったものが現われてくることもあるという。
慶子さんが部屋の奥から絵を取りだしてきてくれた。抽象画に戸惑う私の心を見透かすように「頭で分かろうと思ったらあかん」とおっしゃる。「若い子は知ってるだけが多い。言葉では分かってるけど全然分かってない。私も偉そうに何かを人に訴えるなんてことはできないけれど、自分の体験なら見ていただけると思って。」この絵には、慶子さんの人生の体験そのものが投影されているのだ。
「今までどんだけ着てたんやろ。脱いでいくと子供みたいになるの。身体が軽くなってくるから元気も出るんかな。あるがままで生きている楽さがある。これからもっと赤裸々にならなあかんと思う。」
今回の個展は区切りでありスタートである。85歳の自称不良ババは少女のように笑っている。ふと、歳を取るっていいなと思った。
松本慶子さん
滋賀県長浜市小谷上山田町 TEL: 090-2068-2106
松本慶子個展
長浜市元浜町の喫茶店「こめか」内のギャラリー(TEL: 0749-62-0132)にて抽象画を中心に約16点を展示。開催中9月3日まで。
店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。
【れん】