麗しく潤おしい……Japanを伝える

塗師 渡邊嘉久さん

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2011年7月1日更新

塗師 渡邊嘉久さん

 七職という言葉がある。仏壇製造に必要な7種の職、総木地師、塗師、金箔押師、宮殿師、彫刻師、蒔絵師、錺金具師のことだ。浜仏壇の製造で知られる旧長浜市内にも、七職が点在する。
 塗師の渡邊嘉久さん(47)も、その一人である。漆塗りを専門にする渡邊仏壇店の3代目だ。20年前に塗りの世界に入り、仏壇、寺院用仏具の製造、修復、長浜曳山まつりで巡行する曳山の修復にも携わる。
 昨年、地元の工芸仲間4人で「長浜工芸研究会」を立ち上げた。「伝統技術を現代の生活にあったものづくりに生かしていく」ことが研究会の目的だ。その一環として長濱八幡宮近くにギャラリー「八草」をオープンした。メンバーの、そして湖国の若い工芸作家たちの作品を展示し、ものづくりの拠点にしていこうとしている。
 漆塗りには約30の工程がある。塗って乾かし、磨くを繰り返す。手に載るお椀ひとつに2ヶ月を要する。本業と県外の漆作家に学びながらの作品制作、さらには県内の若手作家の発掘……渡邊さんは忙しい日々を楽しんでいるようだ。「現状維持ではなく、常にそれ以上のことをやっていかなあかん、充実した人生を送りたいんです。一生泳ぎ続けるマグロみたいなものでしょうか」。

ギャラリー八草

 塗師として、渡邊さんが譲らないのが原料の漆だ。岩手県の浄法寺のものを使っている。主流となっている外国産のものと比べると、デリケートで扱いにくく、値段も10倍近くするのだという。それでも時間を経てからの品質の良さは歴然としているそうだ。
 塗りを極めるゆえに行き着くところなのだろうか。おととしには、浄法寺まで行って漆の木から樹液を掻き出す『漆掻き』も学んでこられたそうで、掻き出す道具を見せていただいた。そしてある試みについて教えてくださった。
「滋賀でも50年ほど前までは漆が採れたそうなんです。いろいろ調べてみたら今も余呉に塗りに使える漆の木があるらしい。今度植物の専門家と一緒に調査に山に入ります。うまく行けばその余呉の木から自分で漆掻きをします。地域の文化財に漆を使うなら、やはり滋賀県産のものを使っていきたいですから」。

漆は岩手県の浄法寺のものを使っている

 近々、八草で漆塗り体験教室を開講する。お箸やお椀づくりや、陶器を漆で直す「金つぎ」などをレクチャーする予定だ。「漆の世界を身近に感じてもらいたいのはもちろん、日本に伝わる工芸品は長く使えることを知ってほしいんです。修復し大事に使う。日本は元来こういう国なんです」。
 英語でJapanは日本だが、「japan」と小文字になると漆器を意味する。漆という言葉の語源は「潤おしい」、「麗しい」。余呉の山に入るときは、一緒に連れて行ってくださいとお願いしている。渡邊さんが守り伝えようとする日本の麗しさの一端を見てみたいと思った。

ギャラリー八草(やつぐさ)

滋賀県長浜市宮前町10-12 / TEL: 0749-50-3534
営業時間 13:00〜17:30(土日祝は11:00〜)/ 不定休

漆塗り教室は、随時入会可能
毎週木曜日19:00から2〜3時間程度 月3回目安で7,000円(一部材料費負担)

渡邊仏壇店(渡邊美術工藝)

滋賀県長浜市三ツ矢元町15-30 / TEL: 0749-62-3257
営業時間 8:00〜19:00頃 / 不定休

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

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