山内さんと伊吹大根

山内喜平さん

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 米原市 2018年2月2日更新

山内喜平さん

 昨年末、友人が「とっても物知りで、色々なお話を聞かせてくれる人」と引き合わせてくれたのが、長浜市木之本町古橋にお住いの山内喜平(90)さんだ。「何の話がよろしいか?」と山内さんは記憶の引出しのどこを開けるかを私たちに委ねたほどで、引出しがどれほどあるのか、全くわからない。その日、印象深かったのは山内さんが精魂傾けられた「伊吹大根復活」のお話。大根がおいしいこの季節、山内さんと伊吹大根の話を書いておこう。
 山内さんは県の農業改良普及員をしていた昭和52年(1977)、在来品種の調査をする中、生産が絶えてしまったといわれていた伊吹大根を米原市上野でただ一人育てているおばあさんが居ることを知り、種を分けてもらった。種を自宅に持ち帰り畑に捲くと、細いのやら太いのやらいろいろな形の大根が育った。「170本の内、6本だけが古文書に出てくる伊吹大根の形をしていました」。
 種を分けてくれたおばあさんは「ご先祖から受け継いだ大根を高齢で作れなくなり、ご先祖様に申し訳ない」と涙を流されたそうだ。もらった種は雑種化していたため不揃いな伊吹大根しか育たなかったのだ。古文書を調べると、『和漢三才図会』(1712年)の「江州イブキと相州カマクラに鼠大根あり、太短く、味甚だ辛く食通これを重んず」と、『大和本草』の「伊吹大根は江州伊吹山に自生、根短くも肥大、その先ネズミの尾の如し、その味甚だ辛し、煮ると甘く、ネズミ大根という」に行き当たった。山内さんは“太短く、ぽってりと丸い形”を伊吹大根の基本形と決め、その6本をハウスに移して種を取り、その種から伊吹大根の形をしたものだけを育て種を取ることを繰り返し、捲いた種の80パーセントが伊吹大根に育つようになった。
 山内さんは雑種を取り除く「母本選抜」という方法を繰り返すことで安定した固定種の復活を成し遂げた。「この方法こそが育種学の基本」と話すが、費やした時間は約30年、「唯一無二の遺伝子を残したい」の一念だったという。

伊吹山文化資料館主催の体験教室「伊吹まるかじり隊」の子どもらが育てた蕎麦を打ち、食するイベントで「伊吹山では蕎麦と一緒に大根も根付いていた」と栽培の歴史を話した山内さん。この活動は14年目で、毎年講師を務めておられる(平成29年12月23日)

 山内さんは大根の原産地について、諸説あるとしながらもおそらく中央アジアで、シルクロードで中国に入り日本へ伝わったと考えておられる。伝わったのは二つのルートがあり、北支系と呼ぶ北ルートで入ってきた大根は葉柄や根に赤・紫色の色がつくものがあり辛みが強く、寒さに強い。一方南支系と呼ぶ南ルートで伝わったものは白く柔らかで辛みは少なく大きく育つとも。伊吹での栽培の歴史は稲よりもずっと古いとも話され、現在多くの種類がある大根は伊吹大根の品種改良によるものも多いそうだ。「伊吹大根は日本の大根の歴史を作った文化財のような作物。作り続けなければ後世に伝えることはできない」と山内さんは言う。山内さんの種は伊吹へ里帰りして、現在、地域の伝統野菜として生産されるようになった。それでも「満足はしていない」という山内さんの家では、今も伊吹大根だけを育て食している。「ライフワークとして作り続けます」、傍らで奥様も微笑まれた。

参考文献

  • 伊吹山大探訪シリーズ3「伊吹山を知る“やさしい”山とひと学の本」伊吹山ネイチャーネットワーク発行

伊吹大根は、道の駅「伊吹の里 旬彩の森」で、1本100円前後で販売されている(天候により収穫できない場合もある)。「伊吹大根おろしドレッシング」や「伊吹大根のど飴」、漬物などの加工品もある。

道の駅「伊吹の里 旬彩の森」

滋賀県米原市伊吹1732-1
TEL: 0749-58-0390
営業時間 9:15~17:00 / 3月15日までは木曜定休

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

光流

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