写真に焼き付けた感動

中村一雄さん

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2014年5月30日更新

 66年前、中村一雄さんが初めて買ってもらったカメラは、蛇腹カメラだった。その頃をご存知の方には当たり前のことなのだろうが、ひとむかし前は、蛇腹カメラが普通だったそうだ。現在、中村さんの手元には、蛇腹カメラはもうない。しかし、中村さんにどんなカメラだったか聞いていると、蛇腹が開く様を目にしているかのような臨場感があった。
 写真を撮りたいと思うようになったきっかけは、子どもの頃遊んだ「日光写真」だという。日光写真とは、原画を印画紙に感光させる玩具だ。しかし日光写真では、原画に描かれたものしか写すことができない。カメラがあればどんな絵でも写せる、それでカメラがほしいと思った。
 昭和22年、戦後間もない頃。彦根中学(現在の彦根東高校)の学生だった中村さんはある日、通学路のカメラ屋に、中古の蛇腹カメラが並んでいるのを見た。ドイツ製だったが、その時は、カメラなら何でもよかったという。当時、カメラはとてつもない高級品だった。しかし理解のあるお父さんで、「年をとっても楽しめる趣味を持つのはよいことだ」と買ってくださったのが、中村さんの長い写真歴の始まりだ。

 中学、高校、大学、そして社会人になっても写真を続けた。一時は、日本フォトコンテスト誌など、写真誌のコンテストの入賞常連者だった。社会人になっても、お勤めの傍ら、週末には写真を撮りに行き続ける日々。限られた撮影の機会で、納得のいく写真を撮るために必死だったという。賞金のためではなく、名誉をかけて写真を送り続けた。
 「写真は自分で撮りに行くもの。そこが絵とは違う。今はデジタルだから撮ったその場で見ることもできるが、当時は銀塩(フィルムカメラ)。撮った時は『よっしゃー写したー!』と思っても、帰ってきて現像するまではわからない。しかしそういう不安定な要素のある中に、成功の楽しみがある」と中村さんは語る。

 当時、毎月のフォトコンテストでしのぎを削っていたライバルたちの多くは、プロのカメラマンとして有名になっていったそうだ。しかし、中村さんはあくまでアマチュアカメラマンとして活動し続けた。「プロになれば、時代に迎合しなくてはならないという苦しみもある。やはり自分で楽しむことが目的」という。一方で、彦根の文化活動に尽力し続けてきた。彦根文化連盟の設立から携わり、現在会長も務めている。彦根写真連盟でも長く活動し、こちらでも現在会長として活躍されている。また、病院を訪れる人々の癒しになればという思いから、彦根市立病院に写真を寄付した。
 この春には、自身2冊目の写真集「感動の軌跡Ⅱ」を出版。鳥が飛ぶ、花が咲く、水に景色が映る…そうした自然の風景が、素直に美しい写真の数々がおさめられている。「写真には終わりがない、満点がない」と話す中村さんは、体力の限り写真を撮り続けるだろう。写真について話す言葉と身振りに、66年の積み重ねと迫力を感じた。
 

中村一雄さんの2冊目の写真集

感動の軌跡Ⅱ」(発行所:日本写真企画)
定価:3,800円(税別)・書店注文で購入可能
お問合せ TEL: 0749-22-1869(中村一雄さん)

ひこね文化フェスタ2014

【展示部門】 2014年6月6日(金)〜8日(日)9:30〜17:00
会場:ひこね市文化プラザ(彦根市野瀬町187-4)

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

はま

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