波うさぎを求めて

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2013年7月26日更新

近江八幡市宮内町 日牟禮八幡宮

日牟禮八幡宮の波うさぎ

 若林純さんに会った。『寺社の装飾彫刻』(日貿出版社)の著者であり、自ら彫刻を撮影するカメラマンである。
 僕は淡海の「竹生島紋様(波うさぎ)」コレクターだから寺社の彫刻は数多く見てきたと思っていたが、波うさぎ以外のことはあまり記憶に残っていない。それでもいくつかの寺社を若林さんに紹介し、草木、花鳥、獣類、海波、人物、器物、神話などに由来する寺社の彫刻と、腕を振るった彫物大工たちの系譜についてお話を聞く機会を得た。寺社の彫刻は未評価の文化遺産の宝庫だと思った。

 僕は「淡海妖怪学波」と名乗り湖東湖北の妖怪を拾い集め今に至っている。世の中に妖怪ブームが訪れたように「竹生島紋様(波うさぎ)」が脚光を浴びる時代がくるのでないかと、独りわくわくしている……。
 「竹生島紋様」、或いは「波うさぎ」という言葉を初めて聞く人もいるだろうから簡単に振り返っておく。
 謡曲『竹生島』に次のような一節がある。
「緑樹影沈んで 魚木に登る気色あり 月海上に浮かんでは 兎も波を奔(はし)るか 面白の島の景色や」(「奔る」は勢いよく動き回ること)。
 神秘的で美しい情景だ。
 家紋や焼き物の図柄で親しまれている日本の伝統的文様「波うさぎ」は、謡曲『竹生島』に由来し、淡海発祥の文様だと僕は今も信じて疑わない。

 若林さんが撮影を終え滋賀を離れてからしばらくしてメールが届いた。近江八幡の日牟禮八幡宮山門上層の木鼻(木端とも書く)に波うさぎがあり、長浜市谷口町の三輪神社の桁隠しにも波うさぎがあることが記され、「日牟禮八幡宮の彫刻は、他に例のないスタイルでは?」とコメントがあった。
 僕は、三輪神社の波うさぎについては既に写真におさめていたが、日牟禮八幡宮のそれは、幾度となく訪れ見ていた山門にも関わらず、存在を知らなかった。「竹生島紋様(波うさぎ)」コレクターと自称するからには、もっと精緻にそしてもう一度謙虚に見なければならない。悔しいので反省した。調査済みの寺社にも神秘の文様が遺されているかもしれないのだ……。

長浜市谷口町 三輪神社

 日牟禮八幡宮の山門二階には14の木鼻があり、10匹の波うさぎが彫られている。図像はうさぎを正面から捉え、確かに例のないものだった。うさぎの表情もそれぞれ違いを見て取れる素晴らしいものだ。波うさぎの正面からの図像は屋根の瓦の意匠として淡海にも存在している。しかし、彫り物として正面から捉えたものは今のところ日牟禮八幡宮のものしか見たことがない。もう一度、14の木鼻のそれぞれを見直してみないと判らないが、何か理由があるのだろう、どうやらコマ送りのように連続した文様になっているように思うのだ。
 当時の人々が何故その図像をテーマとして選んだのか。その辺りまで想像力が及ぶくらいの知識を持ち得たならば、「竹生島紋様(波うさぎ)」探索ももっと面白くなるに違いない。これからである。新しい視点を教えてくれた若林純さんに感謝したい。

小太郎

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