「埋れ木」に一を足す—ウモレボン市

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2011年8月28日更新

スミス記念堂で行われたウモレボン市

 いま、「住み開き」がブームである。提唱者のアサダワタルは、「自宅や個人事務所を代表としたプライベートな空間の一部に、本来の用途以外の新しいアイデアを盛り込み、様々な人が集えるパブリックな空間へと変えてゆくその活動、もしくはスペースを指す。」と言っている。
 8月21日にスミス記念堂(和風礼拝堂・彦根市本町)で行われた「ウモレボン市」(主催:ひこねウモレボン市実行委員会・委員長御子柴泰子さん)は、訪れる人の波が途切れることはなかった。主催者によると16の出店と映画の上映、ポーの一族によるライブが行われ、閉館までに約100人の来場者があった。
 「ウモレボン市」は一箱古本市にヒントを得ている。東京の不忍通り界隈を、不忍ブックストリートと名づけ、店の軒先を借りて、段ボール一箱分の本を、本屋にみたて、往来する本好きと散歩好きを相手に、本のやりとりを通じて、まちの魅力を楽しむ。「ウモレボン市」はいわば、スミス記念堂で行われた、本棚の「住み開き」である。

数多くの人と本が集まった

 ただ、堂内は、神田神保町のような古本が醸し出す専門的な空間でも、フリーマーケットのような物々交換のにぎやかしい空間でもなかった。その理由は、スミス記念堂の建築的格式の高さだけでなく、埋もれている記憶にある。
 記念堂を建てたパーシー・スミス氏は、彦根城と堀の景色、彦根の人々をこよなく愛していた。教会では、しばしばスミス氏が周辺の住民と歓談していたという逸話が残されている。こうした埋もれた記憶や人を呼び寄せる場としての力が、「ウモレボン市」という本来とは異なるアイデアによって(計算ではなく、単純におもしろそうなことを積み重ねただけで)、ふたたび力を吹き込まれたのかもしれない。
 確かに、「ウモレボン市」というネーミングも一見すると、ユニークな響きを持つ。しかし、彦根には多くの本屋があるにもかかわらず、古本屋はみあたらない、古いまちであることを考えると、きっと、多くの本が家に埋もれているのかもしれない。そこで、彦根を代表する銘菓の「埋れ木」に「一」を重ねただけという。公式マスコットは、「ワサンボン」。携帯電話の充電器を見ていて思いついた新種のゆるキャラでもある。こちらもまた銘菓「埋れ木」の和三盆糖に由来している。
 こうした彦根ご当地の空気感を上手にとりこむ遊びゴコロが埋もれているからこそ、数多くの人と本が集まった……。
 さて、次は、どんな本棚と人にめぐりあえるのだろうか。

photo:Nana Uekawa(半月舎)

photo:Nana Uekawa(半月舎)

photo:Nana Uekawa(半月舎)

kon

スポンサーリンク
関連キーワード