1000まで49

ボランティア110番動物園

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 東近江市 2011年2月19日更新

「動物さんの野菜畑です。狸さん。荒らさないでね!」の看板

 雪が積もって境界が判らなくなった駐車場の向こうは畑なのだろう……。「動物さんの野菜畑です。狸さん。荒らさないでね!」と手書きの看板があった。「ふれあいひろば ボランティア110番動物園」。
 行き場をなくした小動物たちが命をつないでいる場所である。園長は有城覚(ありしろさとる)さん66歳、退職金と年金を全て「110番動物園」に注ぎ込み維持している。動物たちは、滋賀県の行政機関や警察に保護されたものばかりだ。
 話は1964年に遡る。有城さんは下鴨署高野派出所に勤務する警察官だった。
 「私が勤務して間もない頃、交番に、助けてください、と小学3、4年生の女の子が飛び込んできました。差し出された手のひらにキジ鳩のヒナが包まれていました。ぴーぴー鳴いてるんですね。動物に関して知識のない私は、いろいろ試みてはみたんですが、子どもたちの見ている前でヒナは死んでしまいました。無力でした」。
 これが始まりだった。

「110番動物園」には30種・約150匹の動物たちがいる

 交番にはケガをしたり捨てられたりした動物が届けられるが、ほとんどが処分されるという現実を知り、非番の日に動物園に通い、飼育方法や介護方法を教わることにしたのだという。そして、動物が届けられたら自分で介護し、自宅で飼うことにした。
 交番に小学5年生の男の子が傷ついたスズメを持ってきたことがあった。動物園で教えてもらった知識で介護する自信があった。1週間後、飛ぶことができるようになるまで回復したスズメを男の子に逃がさせてあげた。男の子は感動し目に涙が滲んでいた。有城さんは「お巡りさんの仕事はこれなんだ」と、身体の中の血が熱くなったような気がしたという……。
 「官舎住まいの時は小鳥と小動物。自宅を購入してからは、6室あった部屋が一部屋一部屋動物たちに占拠されて、最終的に台所で家族4人が生活していました。1994年には62種・250匹、給料のほとんどが動物のエサ代に消えてしまいます。結婚してからは妻の稼ぎで家計をやり繰りする有様でした。定年後は、トラックに動物を乗せて移動動物園をしながら講演旅行を2人でするのが夢でした」。

有城覚さん

 奥さんの繁子さんが病に倒れ、有城さんは介護をしながら、現在30種・約150匹の動物たちの世話をしている。
 「動物が好きだからやっているのではないんです。世間がお巡りさんに求めているものは何なのか、それが私の原点です。正義感なんでしょう」。
 有城さんご自身も余命半年〜2年の宣告を受け、癌との闘病が続いている。
 1968年、移動動物園を始め、動物たちと共に「命の大切さ」をテーマに続けてきた講演会は、現在951回を数える。死ぬまでに1000回の講演が目標だという。
 「夫婦で病気になってしまって……、どうしてこんなことになるんだと思ったこともありましたが、随分と優しくなれたような気がしています。病気を与えられたのだと思えば楽になりました。感謝もできるようになりました……」。

 セキレイは生きている虫を食べる。猛禽類は新鮮な鳥や魚を食べる。動物を保護するということは、そういう命と向き合うことだ。1000回まで49回。動物たちは有城さんの病気のことは知らない。

 

ボランティア110番動物園

滋賀県東近江市山上町2870 / TEL: 090-3623-5346

*滋賀県の行政機関や警察から持ち込まれた動物たちのみ。一般からの保護依頼は受け付けていない。
*動物たちの里親になってくださる方ご連絡ください。

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

小太郎

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