ドクダミと白雪姫

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2010年6月28日更新

「白雪姫」の別名を持つヤエドクダミ

 雨の降り続く季節である。威勢のいい紫陽花の、緑の葉が茂る影でドクダミの花が咲いている。特有の臭気のせいか、世間では嫌われ者のこの花が僕は愛おしい。ドクダミの別名は十薬(じゅうやく)。開花期に刈り取って乾燥したものを煎じて飲む。解毒・利尿作用などいろいろの薬効があるとされ民間薬としても知られている。子どもの頃飲まされた苦い経験のせいか、十薬には良い思い出はない。ただ今は、庭のドクダミの白く際だつ花を点線で繋げ、星座を思い描いたりするのが楽しい……。この白い部分、実は、花弁ではなく、総苞片(そうほうへん)という器官らしいが、その辺りは植物図鑑に譲ることにする。

近江肉せんなり亭 伽羅 女将の野田このみさん

 星々を愛でる僕に「八重に咲くドクダミを、山で見つけて持ち帰り、大切に育てている人がいる。あれは、キレイだよ」と友人が囁いた。
「近江肉せんなり亭 伽羅の女将野田このみ」さんだと聞いて、その日のうちに会いに行った。
 伽羅は、彦根の夢京橋キャッスルロードにあり、茶しゃぶ、牛トロ握りをはじめ近江牛を堪能できる、千成亭を代表するお店だ。暖簾をくぐると、美しい石畳のエントランスがある。奥の木戸に隔てられた向こう側にそれはあった。女将の小さな植物園みたいだ。
 「ヤエドクダミ」は別名「白雪姫」。花だけなら、ドクダミには見えないだろうが、その葉はドクダミのカタチをし、独特の臭気もある。紛れもなくドクダミである。
 「あまり人には話したことがないのに、よくご存知でしたね。珍しいので、少しずつでも増えればと思っているのですが。山で見つけたのではなく、買い求めたものですけど……」。

美しい石畳のエントランス

 伽羅で近江牛を味わい、女将と植物の話をするのは楽しいだろうと思った。「浦島草」「八角蓮」「小葉のずいな」など、女将の植物園は僕にとって見知らぬ世界である。
 ところで、白雪姫の日本語訳は、菊池寛訳の『小雪姫(こゆきひめ)』である(昭和2年9月発行小学生全集四巻『グリム童話集』)。昭和2年の段階では、白雪姫はまだ存在していない。ディズニーの『白雪姫』の日本初公開は1950年。皆が白雪姫を世界で一番美しい女性だと知ることになるのは、それ以降のことだ。八重のドクダミに白雪姫の別名が与えられたのは、案外最近なのかもしれない。

 

近江肉せんなり亭  伽羅

滋賀県彦根市本町2-1-7 / TEL: 0749-21-2789
昼11:30〜14:30 / 夜17:00〜20:30(閉店22:00)

昼 2,500円〜 夜 5,000円〜
定休日 火曜日(祝日の場合は営業)
http://www.sennaritei.co.jp/

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

小太郎

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