半月舎だより 19

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2018年6月4日更新

絵本をめくる、時間が流れる

 一昨年から、半月舎で「かえる先生」こと細馬宏通さんのシリーズ講座「かえるの学校」を開いている。滋賀県立大学の教授で人間行動学を専門とする細馬さんは、音楽・マンガ・映画などのさまざまなジャンルに通じており、その分析的な視点から読み解いてもらうと、知っているつもりになっていた作品や作家の、思いもよらない姿が見えてくる。隔月のペースで金曜日の夜に半月舎で開き、繰り返し来てくださる方も多い人気講座となっていたが、今年度は少し趣向を変えることにした。
 テーマは「絵本」。それにともない、子連れの方も来やすいように休日の午前中に開催時間をあらため、半月舎では手狭なので、近所の護国神社境内にある「ほっこりカフェ朴」さんの、板敷きの部屋を借りることにした。
 五月のテーマは、詩人・谷川俊太郎さんによる擬態語を中心としたことばと、画家・元永定正さんによる抽象画がおりなすちょっと不思議な絵本「もこもこもこ」。一目見れば「家にあった」「自分の子どもが初めて読んだ本だ」と、だれもが知っているだろう絵本の一冊だ。

 細馬さんの読み聞かせから始まり、絵本そのもののお話はもちろん、後半に至っては「現代詩を読む装置としての絵本」という試みにまで話が広がった。細馬さんの「詩を書写して、絵本にするとしたら、どこでページをめくるようにするだろう?と考えてみてください」という指示のもと、参加者は谷川俊太郎さんの代表作「二十億光年の孤独」や「かっぱ」を書き写し、絵本にすることを思い浮かべながら、詩の区切りを考えるという作業に取り組んだ。文字数の少なさゆえにあっという間に読むことができてしまう詩も、書き写し、区切りを考えることで、詩に流れる時間を感じることができる。さらに参加者の考えた区切りで詩を読み上げながら、白紙のノートをあたかも絵本のようにめくるという「エア絵本」を細馬さんがやってみせると、会場からはため息がこぼれた。ことばに応じてページをめくる、めくることで、ことばに時間が流れる。ふだん当たり前にしている「ページをめくる」という行為の意味がせまってくることに、素朴に驚くような時間だった。
 絵本のことを考えていると、やはり生まれ育った家のことが思い出される。あまり絵本を読まなくなった頃合いで、近所の小さな子どもがいる家にほとんどを譲った実家の本棚に残っている絵本は、ほんとうにお気に入りだったわずかな数冊だけである。半月舎にもたくさんの絵本がやってくるし、絵本をもとめるひとはとても多い。もしかしたら絵本ほど、一冊の本がいろんなひとの手元をめぐっていく本はないのかもしれない。どの絵本のどのページも、じっくりと子どもの視線が注がれた時間が流れているのかもと思うと、なおいとおしい気持ちになる。

かえるの学校 14時間目 絵本の時間

日時 2018年6月17日(日)10:00〜12:00
定員 20名(小学生以下無料)※要予約
会場 ほっこりカフェ朴(彦根市尾末町1-59 護国神社境内)
料金 おやつ・飲み物つき 一般1,500円、学生1,000円
お問合せ・お申込み 半月舎
TEL: 0749-26-1201 / mikoshiba#64;hangetsusha.com

*講座当日、護国神社境内では「ひこねで朝市」開催中。一緒にお楽しみください。

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

編集部

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