手仕事を守る「締め込み」

大相撲観戦が楽しくなるかも……

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 長浜市 2018年5月28日更新

 大相撲本場所で十両以上の力士が締める「まわし」は、「締め込み」と呼ばれる絹織物だ。国内で唯一手織りの締め込みを織る、おび弘(本社・京都市)山門工場(長浜市西浅井町山門)を訪ねた。
 「最近はピンクやグリーンなど色鮮やかな物が増えましたね」と色見本から見せて下さったのは織り師の中川正信さん(72)。中川さんは締め込みを織るようになって約25年の大ベテランだ。
 締め込みは、長さ約7~8メートル、幅約77センチで〝繻子織〟とよぶ織り方で織られる。通常の機の1・5倍ほどの大きさの機で織るが、機にかけられる経糸は約3万本。横糸を通す杼を投げ込むように行き来させながら、手と足で框を動かし織りあげるが框の重さは40㎏ほどあり体力的にも重労働だ。男性がペアで織っていたそうだが数年前から中川さん一人になってしまい、腰や手、足から悲鳴が聞こえるようになった。テレビ番組の取材を受けた際に「後継者を募集中」と話したことがきっかけとなり、2年ほど前に安川久登さん(36)が修業を始め、今年からは工場長の石井一信さん(56)も締め込みに携わるようになった。今は3人で注文をこなしている。

 中川さんは「スイッチをポンと押せば機械で織れる時代ですが、手織りの物は美しい光沢や風合い、手触りの良さ、しなやかさがあり締めやすい」と話す。経験と勘が頼りの作業で一番大事なのは機の   だと言う。気温や湿度で変わる糸の張り具合を〝ガッチャ、ガッチャ〟という音で感じ、力加減を決める。興味深かったのは横糸の話で、「芯になる糸、固さを出す糸、強度を出す糸、柔軟さを出す糸、それをまとめる役割の糸と、5種類の糸を20本ほど合わせて横糸にしています」、繊細で経験値がものをいう仕事である。
 締め込みは相撲の場所後、昇進祝いとして後援会などが力士に贈ることが多く、次の場所前に仕上げねばならない。糸の染めと整経(経糸の必要な本数・長さ・張力などをそろえること)に丸2日、その経糸を機にかけるのにまた2日必要で、織りに残された時間は多くない。中川さんは「納期が迫ると、朝5時から夕方6時まで、ホンマに死にもの狂いになります」。1日に織れるのは5尺ほど、最速なら4・5日で仕上げるのだとか。

左から、石井一信さん、中川正信さん、安川久登さん

 愛用してくれた力士の一人に元横綱・朝青龍関がいる。直々の注文があったそうだが、通常は織っている際にはどの力士のものかはわからないそうだ。おび弘製の締め込みには端に3センチほどの金糸の織が入っているのが目印で、中川さんはテレビ観戦の楽しみにしている。「締め込みの締め方には数種類あるようで、金糸の見え方が違います」と言い、「最近は体に食い込むような締め方をしている力士が多いように思う」とか「薄く仕上げて欲しいという注文もあります」など、力士が唯一身に着け、戦法にかかわることも多い〝まわし〟ならではのお話も聞くことができたが、やはり自らが織った締め込みを使用する力士の勝敗も気がかりのようだ。
 中川さんたちからは手仕事を残す責務、大相撲を支えているという気概、伝統を守る心意気のようなものが伝わってくる。力士の締め込みに注目してテレビ観戦してみよう!と思った。DADAの発行日27日は、五月場所・千秋楽だ。        

工場見学などの問い合わせは、おび弘本社へ

京都市北区大宮釈迦谷10-8 / TEL.075-491-4311
http://www.obihirokyoto.com

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

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