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半月舎だより 5

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2016年12月30日更新

かんこ鳥と仲よくやる

 12月に入ってすぐ、今月いっぱいで店を閉めると知人から連絡があった。彼は小さな、しかし素敵な洋服屋を営んでいた。店には幾度かお邪魔しているが、買い物をするという贅沢をしたのは、一度か二度だ。しかし、そんな洋服屋が自分の行動範囲にあるということ自体が贅沢だと感じていたし、うれしかった。けれどその店が存在しているだけでうれしいなどと思うことは、少し考えてみれば傲慢なことだと気づけたはずだし、自分の店にしても他人事ではない。雑誌などにときどき載せていただいているせいか、半月舎の名まえを覚えてくださっている方はどうやら増えているらしいと感じることはあるが、相変わらず経営はつねに風前のともしびで、店にはかんこ鳥が住みついていると言って過言でない。
 つい先日も、「メオトなトークショー」というイベントを半月舎で開いた。キッチンミノルさんという写真家が撮影した共働きの夫婦100組の写真に、詩人の桑原滝弥さんが100節の詩をつけた本「メオトパンドラ」(発行:ニューフォイル、2016.9)という本の発売記念イベントだった。桑原滝弥さんと懇意な米原在住の詩人・八男さんが企画してくださって実現の運びとなったのだが、これが驚くほどお客さんが集まらず、前日になっても申し込みがなく、参加者がゼロかもしれないという危機的状況だった。もはやわたしひとりでトークショーをお聞きすることになるかも…と腹をくくりかけたところに、一緒に店をやっているUさんが「これで粕汁でもつくりなよ」と酒粕をくれたので、ふたりの詩人をもてなすだけでもと思い、粕汁とおにぎりを作ってトークショーにのぞんだ。開場時間前にあらわれた滝弥さんは、「お客さん来なくても、あなたのためにトークショーしますよ!」と言ってくれるような気さくなひとだった。
 結果的にトークショーには何人かのお客さんが来てくださり、ささやかな、でもささやかなことがよいと思えるような、満ち足りた時間になった。滝弥さんによる「メオトパンドラ」第1章の朗読にはじまり、100組の夫婦の写真と100節の詩が対応する少し変わった形式のこの本がどのようにできあがったのか、滝弥さんが詩にこめた思いなどをお話していただいた。不思議だったのは、「ある日 人生捨てて 運命拾いました」という冒頭を滝弥さんが朗読しはじめたとき、何度か読んだはずの詩が、はじめて聞くもののように感じられたことだ。すばらしさだけでなく、憎しみや疎ましさや肉欲や別離や、さまざまなものを「メオト」に見出す滝弥さんが書く詩は、読むたびにそのときの自分を映すようだと思った。
 粕汁も喜ばれ、ほっとした次第だが、お客さんを集めるということに関してはいつもやきもきする。それでも、こうしたよい時間を過ごすと、やってよかったと思える。
 日常では相変わらずかんこ鳥と仲よくやりながら、気づけば店は6年目に入っている。毎年のことながら冬はかんこ鳥とふたりきりの日も多いだろう…そんな状況をのんきに楽しめていることに感謝している。今年も一年、ありがとうございました。

M

編集部

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