いにしえの能衣装を現代へ

政所八幡神社 能衣装・能面公開

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 東近江市 2016年10月13日更新

 愛知川の源流域である東近江市奥永源寺地域は、轆轤を引いて木の椀や盆などを作る職能集団「木地師」発祥の地と言われている。この秋、鈴鹿の山あいにひっそりと佇むこの地で、国の重要文化財である能装束と三十面の能面の公開イベントが初めて行われた。
 ひとつの集落にこれだけの文化財が保管されていることが何とも驚きなのだが、中でも室町末期から桃山前期の能衣装と言われる「紅地花唐草入菱文唐織」(国重文)は圧巻だ。近づいて見ると(重文に近づけること自体すごいことなのだが)文様ひとつひとつ、糸一本一本の美しさに息をのむ。400年以上の時を超えて、ここに美しく在ること、その技術と、それを守る人々の思いに神々しいものを感じる。

 なぜここに能衣装や能面が残っているのかということは、残念ながら資料が現存しないためはっきりとしないのだが、木地師と能面打ちとに何らかの関係があったのではと言われている。この文化財を保管する政所八幡神社でも、能面などを用いた祭礼は行われていない。毎年秋に虫干しとして、社務所に能衣装や能面を広げて風を通す時にだけ表に出すため、実は一般の人どころか地元の人間もほとんどその姿を見たことがないのである。この度貴重な文化財を一般に向けて公開するにあたっては、地元でも様々な議論が行われてきたそうだ。それでも、集落の平均年齢が70歳を超える状況の中で、少しでも地域の資源を活かして盛り上げようと有志が長い時間をかけて構想を練り、この秋の公開に至ったのである。

 当日は、地元の人の気迫が低気圧を押しのけたような清々しい秋晴れとなった。鯨幕の前にずらりと並ぶ能面と能衣装の他に、老人クラブによる「よ〜きて喫茶」が、普段は氏子しか口にすることのできない「へそ団子」と地元特産の政所茶を振る舞い、京都大学観世会が謡曲や仕舞を披露して華を添えた。私も手伝いとして参加させてもらったのだが、当日は「70代は朝7時集合、80代は8時集合ね」と、まさに集落総出で準備運営にあたったのである。

 イベントが無事終わり、境内にスタッフ全員が集まりお下がりのへそ団子をいただきながらの直会で、自治会長が「ご先祖さんが残してくれたものがあるから、こういうことができる」と話された。なぜこの地域にこれだけの文化財が残っているか、それが分かった気がした。

れん

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