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ヘレン ケラーが訪れた場所

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2016年4月25日更新

 『新修彦根市史』に『ヘレン=ケラー女史の来彦』というコラムがある。

『「三重苦の少女」「奇跡の人」と称されるアメリカのヘレン=ケラー女史(一八八〇〜一九六八)が初めて来日したのは、一九三七年(昭和十二)、五十六歳の時のことであった。(中略)彦根では、滋賀県立盲学校での記念植樹のほか、今も滋賀大学経済学部構内にたたずむ当時の彦根高商の講堂において、満堂の人々を前に講演を行った。(中略)日米の架け橋としての役割をも期待された平和主義者ヘレンの来日であったが、その後の歴史は、彼女の期待を裏切るものであった。』
 ヘレン・ケラーというその偉大な名を知らない人はいないだろうが、彦根を訪れ、講演をされたという記憶は失われている。
 ヘレン・ケラーが訪れた翌日の新聞は『働く人のために  よき蔭を與へよ 奇蹟の聖女手植の松に祈る! 彦根を訪れたケラー女史』というタイトルで次のように伝えている。
『ヘレン・ケラー女史だ! 七日午後零時十二分下り列車の彦根駅着で湖国への第一歩を印した三重苦の聖女を迎えて感激の興奮が沸いた。駅頭には矢野高商校長、山本彦根盲学校長、市長代理大寄市教育課長ら多数の出迎えを受けて岩橋武夫氏並びにトムソン嬢に伴われた女史は日米国旗の交叉する高商自動車でまず港湾の彦根盲学校を訪問、小憩のうち滋賀縣盲人福祉協会から日米通商の始祖で湖国が生んだ英傑井伊大老の石膏像を贈ったが、一尺五寸の石膏に彫まれた衣冠束帯の大老像に女史は指頭で撫し感激一入であった。引続き校庭で記念の松を植え、感極まった口調で
 この松が枝を伸ばし葉を繁らし盲人のために働く人のよき蔭を與へ常盤の緑を湛へ永遠のよろこびたらんことを祈る
と感激を洩らし彦根高商における午餐会へ向かった』(大阪朝日新聞滋賀版昭和12年5月8日)

 ヘレン・ケラー女史を迎えての講演会は午後1時40分から彦根高商講堂で開かれ、『どうか井伊大老がアメリカに門戸を開放したように闇に苦しむ人々へ永遠の門戸を開放し光りと救いの手を差しのべてい戴きたいと、感激的な言葉を残して約一時間にわたる講演をなし、壇上で贈られた花束に 私の生命よ と大悦びで午後三時七分彦根発列車で大津へ向った』(大阪朝日新聞滋賀版昭和12年5月8日)

 ところで、盲導犬「チャンピィ」の話がNHKの「プロジェクトX」で放送されたのは2002年。彦根城の堀端と琵琶湖が映ったのを覚えている人も多いだろう。また、1994年少年マガジン44号、45号には「歩けアイメイト」という漫画が連載された。国産盲導犬第一号チャンピィを訓練した塩屋賢一(アイメイト協会の創設者)の物語である。昭和32年の話だ。2008年にもフジテレビで日本で生まれた盲導犬第一号の「チャンピィ」は放送されている。  チャンピィの主人は河相洌。戦争中、軍需工場での重労働がたたって失明。努力の末、慶応大学文学部哲学科を卒業。滋賀県立盲学校に就職が決まり昭和31年、彦根に赴任。彦根での生活が始まる。チャンピィが彦根へやってきたのは昭和34年。塩屋賢一は度々彦根を訪れ訓練を続けた。盲導犬は一日一度自由に遊ぶことが許され、護国神社がその場所として選ばれていたという。
 滋賀県立盲学校は現在、 彦根市西今町にあるが、昭和42年(1967)までは彦根市立図書館がある尾末町にあった。彦根での視覚障害者教育は、明治41年(1908)、山本清一郎が彦根町に「訓盲院」を設けたことに始まる。山本は、明治13年(1880)甲賀郡に生まれ、17歳のとき網膜剥離により失明した。『京都市立盲啞院に入り、同院の院長から彦根町に出張所を開いて、視覚障害者に教育の機会を与えることを勧められたという。』(新修彦根市史)。『山本清一郎が院長兼教員となり、生徒机や腰掛を城東小学校から借り、経費はすべて寄附でまかなった』(彦根市史下冊)。昭和3年(1928)県立盲学校となり、昭和9年(1934)年に現市立図書館の場所に移転し「滋賀県立盲学校」と改称。山本は昭和23年(1948)退職するまで生涯を盲教育と盲人福祉のために捧げた人物である。
 
 彦根市立図書館がある場所に滋賀県立盲学校があった。ヘレン・ケラーが訪れ記念植樹をした場所である……。僕は、「働く人のために、よき蔭を與へよ」とヘレン・ケラーが植え、祈った松があるかどうか調べてみたが、松の記憶は、盲学校移転の時に途絶えて判らなくなっている。
 彦根市立図書館が、本年で創設100周年を迎える。大正5年1916年4月25日、文部省により設置認。今号のDADAの発行日が2016年4月24日だから、100年前の明日である。彦根市立図書館創設100周年の祝福を込めて、DADAジャーナルの記事を一部編集し、再掲することにした。

参考文献

  • 『新修 彦根市史 第3巻 通史編 近代』編集 彦根市史編集委員会(2009年)
  • 『彦根市史 下冊』 彦根市(復刻版1987年)
  • 『彦根の先覚』彦根市立教育研究所(1987年)
  • 『大阪朝日新聞滋賀版』(昭和12年5月8日)

協力

  • 滋賀大学経済経営研究所
  • 滋賀県立盲学校

雲行

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