d design travel SHIGA

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 2015年11月28日更新

 11月13日、私は渋谷駅にいた。駅前の有名なスクランブル交差点、岡本太郎の壁画「明日の神話」、忠犬「ハチ公」の銅像…。テレビや映像で見慣れていたが、どれも、実物を目にするのは初めてのものばかりだった。ハチ公は意外に低い銅像だった。ガラス越しに見下ろしたスクランブル交差点は、映画のなかで見慣れているせいか、実際に見てもなお、なにか物語を目の前にしているような、なんだか奇妙な感じがした。毎日渋谷で暮らすひとは、どうなんだろう。そんなことを考えながら、駅に隣接する「渋谷ヒカリエ」というビルへ入り、8階までエスカレーターでのぼった。
 この日は、「d design travel SHIGA」という本が、全国の書店で発売された日だった。「d design travel」は、ロングライフデザインをテーマに活動するD&DEPARTMENT PROJECT が、その土地に長く続く「個性」をデザインの観点から選び、各都道府県の観光ガイドとしてまとめたものだ。2009年に創刊され、年間3冊のペースで発刊されており、滋賀号で17冊目になる。
 編集部の方は、この夏の2ヶ月ほどを滋賀で取材をしながら旅しており、何度か、私の営む古本屋にも寄ってくれた。毎号、その土地らしい本を紹介するコーナーというものがあり、「滋賀らしい本を紹介してほしい」と依頼をいただいたので、非常に恐縮したけれど、1冊ご紹介させていただいた。
 滋賀号発刊を記念して、渋谷ヒカリエ8階にある「d47 MUSEUM」で、12月13日まで、「d design travel SHIGA EXHIBITION」が行なわれている。滋賀号で取材を受けたひとが使っている実物を、編集部が借りてきて展示するというものだ。1メートル四方ほどの机に、掲載紙面とともに実物が並べられていて、紙面に載っているものが実際に立ち上がったような臨場感がある。

 「d design travel SHIGA」がこの秋に発刊されると最初に聞いた時、「知っていることばかりかも」と思った。2ヶ月間滋賀に滞在して取材というのはすごいなと思ったけれど、こちらはもう10年以上滋賀に住んでいる。取材されそうなひとやお店がいくつも思い浮かんだ。
 けれども実際に届いた本を見て、そんな考えは思い上がりだったと気付かされた。まず表紙に驚いた。琵琶湖を取り巻く自然を撮影する写真家・今森光彦氏の写真、ではなく、切り絵「ジャガー」(今森氏はペーパーカットアーティストとしても有名なのだそうだ)。巻末に「滋賀県の自然の守護神のような、気高さと力強さを感じ」今号の表紙とした、と編集部の言葉が添えられている。
 県立琵琶湖博物館から始まる各所のレビューも、「デザイン」に対する鍛えられた視点からの紹介が新鮮で、知らない場所や注目したことのなかったことが多く紹介されていた。知っていると思って、知ろうとしていなかったことに気付かされた。
 初めて来た渋谷で、滋賀からやってきたもの達を見ていた。見慣れたものも、初めてここで実物を見るものもあったけれど、ひとつひとつが、まだ知らない、なにか良い予感を持っているように見えた。
 滋賀を旅する。それは、滋賀に住むものにこそ必要なことかもしれないと思った。

《追伸》 世田谷区奥沢にある「D&DEPARTMENT TOKYO」へも行った。ロングライフデザインをテーマとする「D&DEPARTMENT」の1号店だ。ここでは、「滋賀らしさ」「デザイン」をテーマに選書した本を、40冊ほど置かせてもらっている。
 九品仏駅を降り、商店街を抜けた先に目指す店はあるのだが、この商店街には、長く続いているのだろう豆腐屋、文具屋、寿司屋から、各年代にできてきたのだろう小さな店が並ぶ。最初は「九品仏ってどこだろう?」と思ったものだが、D&DEPARTMENTがなかったら知らなかっただろうこの商店街が、東京のリアルな「ロングライフ」を感じさせてくれた。

d design travel SHIGA EXHIBITION

会期 2015.10.29(木)〜12.13(日)
時間 11:00〜20:00(入場は19:30まで)
場所 d47 MUSEUM(東京都渋谷区渋谷2-21-1 渋谷ヒカリエ8F)
入場無料・事前申込不要

d design travel SHIGA EXHIBITIONの詳細

 

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

はま

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