奇祭 茶わん祭

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 余呉町 2009年4月26日更新

2008年の茶わん祭の様子

 5月4日。余呉町上丹生で伝統の「丹生茶わん祭」が行われる。
 茶わんで飾りつけられた高さ10数メートルの曳山渡御を中心に、神輿や舞、しゃぎり(お囃子)などを子どもから大人まで、村中が一体となって奉納する奇祭だ。かつては3年に1度行われていたが、ここ数年、人手不足などが原因で、今年は前回から6年振りの開催となる。
 昔、上丹生と下丹生の境近くにある末遠(すえとお)という所で、良質な陶土が産出し、そこで作った陶器を毎年、丹生神社に奉納したのが祭りの由来といわれている。末遠とは須恵陶の意味であり、古い陶器そのものを指している。 祭りの華は、なんといっても陶器を絶妙のバランスで組み上げた山飾りだろう。丹宝山(北村組)、永宝山(中村組)、寿宝山(橋本組)の3基の曳山それぞれが、毎回、異なったテーマで飾りつけられる。飾りつけるといっても単純に陶器を上に重ねているだけではない。芸題に沿って茶わんや皿、花瓶などをちぐはぐに組み合せ、わざと重心が偏よって見えるように作られている。これで祭り当
日、支えを外しても倒れた前例はない。職人技の真骨頂である。その作り方は上丹生でも数人の限られた人しか知らない、門外不出の秘伝なのだという。
 現在、曳山は上丹生の資料館「茶わん祭の館」で制作が進められている。もちろん、その現場を見学することは出来ない。それどころか、館の管理をしている丹生茶わん祭保存会の人ですら、そこに立ち入ることを禁止されているそうだ。
 「制作に携わっている人は、家族にもその方法を口外することはありません。今も、村のほとんどの人が山飾りの作り方を知らないんです。村中で祭りの文化を大切にしている証しで、これこそ祭りが平安時代から続いてきた秘訣なのかもしれませんね。それに、その方が、今回の山飾りはどんな姿なのだろうと、楽しみも倍増するんですよ」。
 そう教えていただいた。祭りに参加できるのは、原則として村の人だけである。あくまで、村内在住の人と出身者だけで伝承を守っていくことにこだわっている。 ところで、曳山の山飾りは、歌舞伎や浄瑠璃、伝説、民話などからモチーフを採用して作られる。長浜曳山祭りの子供歌舞伎や飛騨高山祭の絡繰人形が古典の世界を再現しているように、丹生茶わん祭では重ね上げられた山飾りが、そのまま物語となっている。実は、伝統芸能や古典に明るくなくても、読み解く方法がある。
 丹生茶わん祭の山飾りには、基本のパターンがある。一番下に人形を設置し(下人形)、その上に物語にちなんで形作った陶器を重ねていく。最後に、一番上に下とは違う人形(宙人形)を置く。下人形と宙人形で場面を挟んで作るのだ。当然、上の宙人形は、高くジャンプしているか飛翔している光景である。上下どちらに主人公が配置されるのかは、選ばれた物語によって異なるけれど、上は身軽な人かお化けの場合が多い。巌流島なら、上が佐々木小次郎で下が宮本武蔵。余呉湖の天女なら、上が天女で下が桐畑太夫といった感じになる。このルールを知って山飾りを見れば、少し深く祭りを楽しむことができる。数年に一度、秘伝の伝統技を拝めるチャンスまで、あと数日である。

参考資料

『県指定無形文化財 丹生の茶わん祭』 丹生茶わん祭保存会編

丹生茶わん祭

場所: 余呉町上丹生 丹生神社周辺
※10:00頃から祭典が開始される予定。当日の詳しい予定は、茶わん祭の館までお問い合わせください。

茶わん祭の館

滋賀県伊香郡余呉町上丹生3224 / TEL: 0749-86‐8022
開館時間 10:00〜16:00 / 土日のみ開館。その他の曜日の場合、要予約。

店舗等の情報は取材時のものですので、お訪ねになる前にご確認ください。

水源

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