水をめぐる御利益

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 甲良町 2015年6月15日更新

「大日池」2012年撮影

 湖の郷では田に水が入り湖面が広がったようだ。写真でしか見たことのない内湖の風景をかさね想像すると、さながらこの郷は水の王国だ。
 季節は梅雨。空から水が落ちてくる。この水が流れ落ち、ひととき留まるところで御利益が生まれ語り継がれている。例えば僕の祖母の家では、神棚に供えた「神さんの水」が万能の御利益を発揮していた。
 以前、DADAジャーナルで「水をめぐる御利益」を記したことがあった。以来、いくつか新しく「水の御利益」を発見したが、今は忘れ去られた「美顔」について記すことにする。
 甲良町正楽寺の古刹・勝楽寺は、いかなる権威にもとらわれない「婆娑羅」思想の具現者佐々木道誉(1296~1373)の菩提寺だ。道誉は、坂田郡山東町(現米原市)に生まれ、41歳の時、正楽寺に移り住み勝楽寺城を築き、拠点とした。茶道、華道、能楽、連歌などを奥深く極め、能楽や狂言の保護と育成にも力をそそいだ文化人でもあった。寺の背後の山は勝楽寺城趾だ。境内から城趾へのハイキング道の入り口左側に「大日池」がある。
 「元亀元年(1570)七月、織田信長の兵火によって、殆どの堂宇が消失したが大日如来像は幸いに、村人たちの機転で此処に埋めて何を逃れました。鎮火後、掘り出してみると、ここから水が湧きだし、以後涸れた事が無く大日池と呼ばれ、安産・美顔等に霊験あらたかな水と崇められ汲んで行かれる人も多い。」
 現在も細々とだが涸れることなく水は湧いている。この水をどのようにして使うのか処方は記されてはいないが、池に置かれた柄杓は使われている形跡があり、この水を神棚や仏壇に供え祈るのだろうと推測している。時代は移り変わり、湧水を飲料水として使わなくなり、水をめぐる御利益は、加速度を増して忘れられていくだろう。ただ、その在処だけは残ってほしいものである。

 

小太郎

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