路上観察、始めました 3
大正7年、古絵葉書のあの場所

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 2015年2月25日更新

 嬉しいことがあった。僕には突き止めたい場所というのがいくつかある。それらしい場所の近くへ行くと、確かめてみることにしているのだが、当てが外れるのが常だ。そういうことが面白い時代が多分、誰にでもある。最近は時間に追われる事も多くふらふらすることもなくなったが、雨や雪、陽が差したりと、落ち着かない空模様の午前、彦根の雨壺山を歩いていた。千鳥ヶ丘公園として遊歩道が整備されている。濡れた落ち葉の上を歩くのも気が滅入った。
 滋賀県立大学の細馬宏通教授が書かれた『絵はがきのなかの彦根』(サンライズ出版/2007年)に、「彦根全景」という大正7年以前の古絵葉書が載っており、撮影場所について「千鳥ヶ丘公園の高みから撮影する必要がある。ということは、やはり、あの鬱蒼とした木々のあたりに、撮影場所はあったのだ。木々を剪定すれば、あるいは明治と同じ眺望が開けるかもしれない」と書いてあった。
 その日は麓の長久寺に用事があった。この寺は歴史的事跡の宝庫だ。「御覧の梅」は推定樹齢800年、源頼朝が上洛のおりに自ら植えた紅梅である。佐和山城攻めの際には、平田山に陣を置いた徳川家康が、この梅を見たので「御覧の梅」という名がある。この梅を観るだけでよかったのだが、僕は丘を登った。理由は無い。
 開けた場所に出ると、あの古絵葉書の風景があった。写真を二枚撮った。幾度か来たことのある場所だったが、視界が開けたのは初めてだった。
 写真と古絵葉書を比べてみると、絵葉書が撮影された場所に間違いないことに確信が持てた。山の形、天守と櫓の位置関係、石垣の位置などが同じであること。そして何より琵琶湖面の映り込んだ位置がほぼ同じであることから、高度が同じことを証明しているように思える。
 へこたれることや、心が折れることも多い日常で、何の役にもたたないこういうことが嬉しかったりする。とにかく僕は突き止めたい場所に立ったわけである。
 満開の桜の頃、この場所から彦根の山を眺めたいものである。森川許六が記した普門白桜でもいい。普門は長久寺の山号、白桜は薄墨桜の名でも知られている。春は間もなくである。

 

小太郎

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