桜の記憶

このエントリーをはてなブックマークに追加 地域: 彦根市 2014年4月16日更新

 桜の花が咲くと必ず思いだすことがある。菜の花や菖蒲といった季節を代表する花も同じように記憶の何処かにつながってはいるけれど、桜の思い出は、他の花とは少し違った心の場所にある特別なものなのかもしれない。
 僕の場合……、中学校のグランドが姿を現す。彦根西中学の出身で、グランドの桜は僕らが植樹したものだ。背丈ほどの苗木だったが、歳月はそれを立派に育てた。思い出はそこから始まっている。愛だの恋だのロマンチックなものではなく、家族におきた突然の大事件だった。その事件のおかげで、僕は今もこうしているし、植樹から現在までの記憶を毎年一瞬にしてトレースしている。桜の咲いている間、何度もである。桜は極、個人的な思い出を多く抱える。だから、鮮やかで夜に独りで見上げる時などこみ上げるものがあるのだ。
 満開の頃、車を走らせた。ヘッドライトに照らされ浮かぶ桜は白く美しく、闇のなかを後ろへと流れていく。山の中を走ると廃村に行き着くことがある。そこにも桜の花が咲いている。今、花の頃にだけ覚える痛みがある。桜の木の記憶と接続するようなそんな痛みだ。
 明け方、原稿を書いているが、また別の桜の風景が浮かんでくる。それは知らないところに咲く桜で、忘れることのない桜だったりする。そうやって時間がくるまで生きることになっている。
 昨年は、生まれたばかりの猫が花びらに包まれて側にいた。今年は今年でまた何かの大事件が起こったりするのだと思っている。ほんとうにそうやって僕らは時間を通り過ぎていくのだ。そろそろ、街が動き始める。

 

小太郎

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